二輪旅行

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レンタルバイクで台湾一周ツーリング〜8日目〜

八日目 台南〜多納〜屏東〜高雄
    少数民族の村で腹一杯。

Duona

カーテンを開け、通りを見下ろすと、どの車もワイパーが動いている。時間の割には薄暗い光に、もしかしてと思ったが今日も雨のようだ。

気が乗らないまま着替えを済ませて荷物をまとめる。このホテルは朝食もついている。台湾でわざわざホテルの朝食なんてという気がしないでもないが、今朝は外へ出るのが億劫なのでありがたい。一階に降りると車が水しぶきをあげる音が聞こえてきてまた気持ちが落ちこんできた。

日本のビジネスホテルのようにロビーの前に喫茶店のようなレストランがあり宿泊者はそこで無料の朝食が食べられる。朝のメニューは中華と洋食があって、気分ののらないせいか何故か洋食を頼んだ。革のソファーに座ってトーストを齧りながら通りを眺める。コーヒーをお代わりして粘ってみてもやはり天気が回復する兆しはない。諦めて出発することにした。

 

〜中略〜

 

ぶらぶらと歩いていると集会所らしい家に目が止まった。お婆ちゃんが五〜六人、青い刺繍が入った丈の長い黒い着物を着て、家の前に出されたパイプ椅子に腰掛けておしゃべりをしている。これがこの村の民族衣装なのだろうか。集会所の建物は普通の住宅のようだが、家の前は屋根のついた広いガレージのようなスペースになっている。折りたたみのテーブルがいくつか置かれ、切ったスイカが皿に盛られている。民族衣装はおばあちゃん達だけで、普段着の女性男性が忙しそうに入れ替わりやってきてはお婆ちゃん達に挨拶していく。何かの行事かもしれないと思い遠くで見ていると、一人のお婆ちゃんに手招きされた。動き回っている人たちに遠慮しながら集会所の敷地に入っていくと、お婆ちゃんはにこにこしながら、はっきりとした日本語で言った。

「日本の方ですか?」

「はい、日本人です」

お婆ちゃんはこっちに来て座れと自分の右側の空いた椅子をぽんぽんと叩いて、

「日本の方に会うのは久しぶりですね」

と言った。家の中から若い女性が、スイカを盛り付けた皿を運んできた。お婆ちゃんが何やら女性に話しかけると、僕の目の前にスイカの皿が差し出された。遠慮なく一切れいただく。甘いスイカを齧っているとお婆ちゃんが話し始めた。

「私はね、子供の頃に三年間日本語を勉強しました。日本人は懐かしい。昔はここの学校に日本人の先生がいましてね、先生はとても礼儀正しい人でしたよ。そして優しかった」

日本の統治時代の話だ。台湾の高齢世代には子供の頃に日本統治時代を過ごしたためかなり流暢に日本語が話せる人が多いと聞いてた。しかし、そんなお年寄りに実際に会うのは初めてだ。それにしても、何十年前かのたった三年間の勉強でこんなに良く話せるものかと感心する。お婆ちゃんは続ける。

「私はね、よく学校の花の世話をしていましてね、よく褒められたんですよ――

ところで先生はどちらから来られましたか?」

一瞬誰のことを言っているのか分からなかったが、先生というのは中国語の男性に対する敬称だ。学校の先生ではなく、僕がどこからやってきたかを聞いているのだ。

 

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レンタルバイクで台湾一周ツーリング

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